霜降 初候

夏から秋までしっかりと花をつけて楽しませてくれた「芙蓉(ふよう)」、晩秋になると花もあまり開ききらず夕方になっても柔らかく筒状になり暑い時とはまた一味ちがう風情がございます、花自体は小さくなりますがこの頃の芙蓉が一番美しく見える気がいたします。
本年も松茸は大変に高値にて仕入れも大変でしたがやはり松茸は秋の日本の味覚、楽しんでいただきたく思います。
「土瓶蒸し」・・・大変に野趣のある料理でございます、松茸の時期に煮物椀代わりにちょっと目先を変えたりもいたします。
名前が「土瓶蒸し」とてご周知のとうり蒸し物ではございません、素人の方は土瓶を蒸す様に思われる方が多い様ですが、土瓶ごと火に掛けるのが土瓶蒸しでございます。
本来は樵(きこり)の秋の料理にて、山に入りご飯どきにその辺に生えている松茸を割いて手持ちの土瓶に放り込み醤油をたらしてたき火にくべて松茸を蒸し焼きにした野趣溢れる料理が本来の姿、それが「土瓶蒸し」と言われる所以でございます。
現在では希少になってしまった松茸を鱧と共に時候の青菜を添えて出汁を使って楽しんでいただく本来からは、かけ離れた上品な一品となってしまいました、その秋の松茸に添える青菜も昨今では三つ葉が多用されるのを見受けます、本来三つ葉は夏に花をつけトウが立ってしまうので初夏までが美味しい野菜でございます、現在は水耕栽培にて一年中ございますが秋の松茸の香りに三つ葉の香りが添うのは、寒中にスイカを食べる様な大変に面黒き次第でございます。
この時節に至れば、蕪や大根などの「間引き菜」、走りで用いれば「若水菜」など添えて松茸の風味を生かすこと肝要かと思う次第でございます。
添え物の青味一点にも季節の風味が感じられる、これが日本料理の良さ・・・と思います。